20年前に暴力団関係者と思われる人にボコボコにされた時のお話。
それは大学1年の春休みにやっていた道路工事の警備員のバイト中の出来事。
その日はそのバイトを初めてまだ3回目だったにも関わらず、T字交差点のど真ん中に立って三方向に指示を出す一番重要なポジションを任された。
場所は日野の多摩テック近く。工事現場は左右に延びる道と多摩テックに繋がる道がぶつかる交差点(T字を逆にした形)の左手側で、左から右方向に進む車線を結構長い距離(100メートル以上あったように思う)で工事していた。
確か午前2時過ぎ。左側から車が来てる、通していいかとの連絡が入ったので、前と右側の道を担当してる警備員に車が来ても止めるように指示をして、左側からの車をそのまま進ませるよう指示を出した(片側の車線を交互に使ってるため、一方向ずつの車しか入れない)。
数秒後、工事で狭くなった道からその車が出かかった頃に右側から車が近づいてきた。信号は赤。だがそこにいる警備員が何も指示を出してないのをGOサインとでも思ったのか、信号を無視してその車は進んできた。そして左側から来た車とオレの目の前で側面接触。
深夜で静まり返っていたのもあり、接触した時に派手な音があたりに響いた。
幸い両ドライバーとも怪我はなかったが、それで一安心つける状況にはならなかった。ぶつけられた白い高級車から、革靴のかかとを踏みつぶした一見してそちらの人と分かる風貌の男が降りてきたのである。
オレは左からの車(白い高級車)を流す指示は出したが、右には出してない。しかも信号は赤。だから右から来た車が信号で止まれば事故は起こらなかった。悪いのはその車のドライバー。
だが、オレは目の前ですげー音を立てて接触した事故を見てテンパってしまい、自分が止めなかったせいだと思って白い車から降りてきたその男に近づいて謝った。謝ってしまった。それがいけなかった。
奴はオレを蹴り上げた。
正直言うとそれ程痛くはなかったが、痛がった方が奴の怒りは収まるんじゃないかと瞬間的に考え、ジャッキー・チェンの映画並みにオレは派手に吹っ飛び、悶絶してみた。
逆効果だった。
奴はオレが吹っ飛ぶ事に快感を覚えてしまったようで、立ち上がったオレに近づいてきて再度蹴りを入れてきた。
これはいかんと思い、咄嗟にヘルメットをとって謝る事にした。
オレはヘルメットをとった。
数日前、オレは門脇に髪を切ってもらってた。
大学に入ってからはいつも門脇に切ってもらってた。大抵はGIカットだったのだが、その時オレは門脇に任せると言って頼んだ。頼まれた門脇は、せっかくだから誰もしてないパンクな髪型にしましょうと言ってバリカンを入れた結果、門脇曰く「お皿カット」という髪型に仕上がった。横と後はスキンヘッドで頭頂部にカッパの皿を乗せたように丸く髪が残った髪型だ。確かに誰もしていないオリジナリティ溢れる髪型だ。しかしこの髪型をもう一度頼む事はないだろう。
ヘルメットをはずしてそのお皿カットの頭で謝った時、その暴力団風の男の怒りの方向が変わった。
「てめー、なんだその頭!!ナメてんのか!!」
蹴り、蹴り、蹴り・・・。
いえ、決してナメてる訳ではございません。誠意を見せようとしてるだけです。
監督さんが走ってきてその男を止め、事情を聞くが怒りが収まらない。工事現場は仕事が全てストップ。警察が到着。その男は警察と話をする前に「てめーに後で一筆書いてもらうからな」とお皿頭のオレに言ってきた。それを聞いていた監督さんが「奴が見えないところで隠れてろ」と言ってくれたので、お皿頭をさらしたまま工事現場から見えない公衆電話まで逃げた。そして警備会社に事情説明の電話を入れた。
翌日、会社に呼ばれてお皿頭で始末書を書かされた。
教訓
お皿カットで警備員をやると大変だよ!!
それにしてもなんでああいうタイプの人が被害者になってしまう、そういう場所にオレは遭遇してしまったのだろうか、という思いは今も消えない。オレは運がいいのか?悪いのか?
そういう思い出。
真面目な話もちょっと書いておくと、警備員が道路でやってる事は「交通誘導」といい、警察がやる「交通整理」と同じように見えて、意味がちょっと違う。
警備員がやっていることはドライバーに協力してもらって成り立つ行為であり、強制力はないし、信号機があった場合、その信号機を無視した誘導も出来ない。警察の指示は強制力があるし、信号機よりも優位。つまり、警察>信号機>警備員、という関係になる(と教わった記憶があるが絶対的な自信はない)。これを逆の見方をすると、警備員の誘導に従って信号を無視して事故にあったとしても警備員には責任はないという話。警備員と警察のそれは似て非なるものです。だから皆さんもその辺の認識には気をつけて下さい。
だからか、もし事故があっても絶対に謝ってはいけないと事前の研修では指導される。警備員が謝った場合、責任の所在がややこしくなるという事なのかのかもしれん。
オレは謝ってしまった。その男がオレをターゲットにしたは、そういうからくりを知ってたからなのかはよく分からんけど、オレの責任どうのこうのという事にはならず、始末書は書いたけど翌日からも仕事をもらえた。ただ同じ現場だと奴が探しにくるかもしれないと言われ、オレが希望した現場は当時住んでいた立川近辺の日野八王子方面だったのだけど、それ以降は中野方面になった。
まあ、エラい目に遭ったけど、当時はまだ日本がパブリーな時期だったので、夜勤一回で確か¥16,000-(¥2,000-/時×8時間)とそれ以外に月曜日から金曜日まで5日連続で勤務したら皆勤手当として¥10,000-/週が出たし、仕事が定時に終わる事はほとんどなく残業代もたくさんついた。だから2ヶ月びっちり入って80万位稼がせてもらったそんなオレのバブリーな思い出でもある。