1週間前、以前ここで触れさせて頂いた芦別出身のノンフィクションライター角幡唯介さんの講演会が地元で開催されたので聞かせて頂いた。
芦別は北に旭川、東に富良野という全国に知名度のある自治体と隣接しているせいで、簡略化された北海道地図ではそれらの地名は表記されても芦別は省略される場合が多く、そんな地図を見ると屈辱的な気持ちになったりもするのだが、個人として全国的に知名度のある人は町の規模以上に輩出しているように思う。角幡さんも「空白の五マイル」で開高健ノンフィクション賞を受賞された後、その一人としてその名前を出される存在になったに違いない。
曲がりなりにも同じく表現活動をしている者として本音を言えば、自分がそちら側に行けないのは悔しく、講演会を開けば人が集まってくるその人に嫉妬があるけれど、いざ話を聞くと自分がそちら側にいけない差、人間としての魅力や活動にかける熱意の差を圧倒的に感じさせられた。
今回2時間程の講演で角幡さんが語ったメインの話題は、荻田さんという「北極バカ」と紹介された方と100日以上かけて北極圏を1000キロ以上歩いた「旅行」について。オレにはそれは旅行とはとても思えん行程なのだが、角幡さんがブログで北極圏徒歩旅行と表現しているので、角幡さんにとってそれは旅行なのだろう。
講演を聞くにあたりオレは角幡さんの話を記録しようと思い、ノートとペンとカメラを持って前から2列目に座ったのだけど、話を聞き始めてすぐに聞く事から意識をそらしてカメラを構えたりメモを取るのが勿体ない気がしてしまうくらいに、かつて聞いたことがない話に引き込まれた。結局それらを使わず聞き入った話を一週間経って思い出そうとすると、ディティールが思い出せなくてちょっと後悔してるのだけど、それでも凍傷とヘルペスで唇がパンパンに腫れ上がったセルフポートレイトや、やはり凍傷で足の指が紫色になっている写真等をスクリーンに映し出しながら語られた体験談は一生忘れる事がないであろう、強烈なものだった。唇が腫れ上がった写真を見た瞬間は「あしたのジョー」でジョーが減量の極限状態で唇がパンパンに腫れ上がってしまうシーンを思い出した。マンガじゃなくてもああいう唇になるのを初めて知ったよ。あの絵も初めて見た時はマンガとはいえ強烈だったけれど、パンパンに腫れてあり得ない色に変色した唇に、傷口から流れ出た血が5センチ程の長さの赤いつららになってぶら下がっている、そんなセルフポートレイトは強烈に目に焼き付いた(角幡さんは過去の探検で痛めた足に血行障害があるために今回血行促進剤(?)を服用しながらプロジェクトに臨んだらしいのだが、その促進剤の影響で巡りが良くなった血が唇の傷から吹き出し、それがつららになったらしい)。
そんな話や夜中テントに近づいて来たホッキョクグマを追っ払おうと荻田さんが「てめぇぶっ殺すぞ!!」と言って携行していたショットガンをぶっ放しながら二人でホッキョクグマを追いかけた話、そもそも何故探検をするようになったのか等を随所に笑いを交えながら、今は元に戻った口で語ってくれたのだが、今回の二人の「旅行」はかつてそこを探検して全滅した外国の探検隊の足跡をトレースするようなルートだとも説明されていた。その隊は最期、カニバリズムで命をつなごうとしたらしい。時代が違うとはいえ、二人はそこをトレースしていたのだから、彼等も一歩間違えば遭難し命を落とす危険があったに違いない。もしそうなってどちらかが絶命した場合、彼等もその隊と同じ現実を突きつけられる。
二人が無事で帰ってきたから、パンパンの唇に血がつららになってぶら下がってるセルフポートレイトも、ホッキョクグマに襲われかけた体験談も笑いに変えて伝えられるけど、角幡さんも荻田さんもやっている事は間違いなく命懸けだ。
彼等のような探検家の場合、次なる刺激を求め続けていくと、生と死の狭間にどんどん近づいていく活動になっていくはず。オレなんかに言われるまでもなく、当人はそれを強く感じているんじゃないかと思うけど、それでもやっぱり続けるんだろうな。
オレにはとても出来ん事だけど、取り憑かれたように行動し、何かを生み出す人に魅力を感じてしまうオレとしては、是非ともこれからも活動を続けて、そしていつも無事で帰ってきてほしいと思う。
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